幼児教室とは?通わせるメリット・デメリット、幼児教育の歴史や主な理論などについて徹底解説

日本では、2019年10月から「幼児教育・保育の無償化」が実施されました。それにより、認可保育施設や幼稚園(子育て支援制度対象施設)、認定こども園に通わせる費用は完全無償化になり、家計の負担が大きく軽減されたという声を聞きます。

他方、幼児期の子どもたちが置かれる環境や保育の質に対する配慮が足りないとの意見もあります。そのため、幼児教育についての専門的な知見や明確なメソッドを持った幼児教室に子どもを通わせる親たちもいます。

法制度や社会環境が大きく変化する中で、子どもに合った教育を見極めるためには、親たち一人一人が幼児教育について理解を持っておくことが大切でしょう。ここでは、幼児教育とは何か、大切な理由や主な理論、歴史、さらには幼児教室に通わせるメリットやデメリット、考慮しておきたいポイントについて解説します。

目次

幼児教室とは?

文部科学省によると、幼児とは「小学校就学前の者」を意味し、幼児教育とは「幼児に対する教育」のことを言います。ある特定の場所での教育を指すのではなく、幼児が生活するすべての場所で行われる教育を総称したものです。

たとえば、以下の場所で行われる教育もすべて幼児教育に含まれます。

  • 幼稚園
  • 保育所等
  • 家庭
  • 地域社会

幼児期は生涯にわたる人間形成の基礎が培われる非常に重要な時期です。この時期に、幼児は生活や遊びを通じて、情緒的・知的な発達、あるいは社会性を身に着け、人間として、社会の一員として生きていくための基礎を作り上げます。

幼児教室は、幼児を対象にした学習教室のことです。特定のスキルを身に着けることを目的とした幼児教室もあれば、自主性や協調性を育むことに重きを置く幼児教室もあり、教育論やメソッド、カリキュラムもそれぞれです。幼児期に子どもが身に着けるべき能力や性質は幅広くあります。

知育とは?

知育とは、幼少期より知的な能力を育むための教育のことです。実際、多くの幼児教室が目的の一つに知育を掲げています。

「知育」は教育基本法の中で言及されています。自己と向き合い、志を持ち続け、主体的に人生を切り拓くために不可欠な「徳育」と切り離せないものとして「知育・体育・食育」が挙げられています。この「三育」はもともとイギリスの学者ハーバート・スペンサーが「教育論(1861年)」で示した概念だと言われています。

早期教育とは?

幼児教育に似た概念として早期教育があります。同じような意味にとらえがちですが、目的が異なります。早期教育は「脳が柔軟なうちに子どもの知的好奇心を促進し、高い吸収力や順応能力を持つ幼い間に教育を開始することで脳の活性化を高め、優秀な人間を育てる」という理念に基づいています。日本では早期教育として、スイミングや英会話、武道やピアノなどの楽器演奏などが選ばれています。

この点、文部科学省も「幼児期の発達の特性に照らした教育とは、受験などを念頭におき、専ら知識のみを獲得することを先取りするような、いわゆる早期教育とは本質的に異なる。幼児教育は、身体感覚を伴う多様な活動をすることによって、生涯にわたる学習意欲や学習態度の基礎となる好奇心や探求心を培い、また、小学校以降における教科の内容等について実感を伴って深く理解できることにつながる『学びの芽生え』を育んでいる」としています。

以下では、早期教育のように特定の技能やスキルに特化した教育ではなく、知育を含む、広い意味の幼児教育を行う学習教室を「幼児教室」と呼ぶことにします。また、前出のように幼児は就学前の0~6歳の子どもを指しますが、主に幼児教室の対象には3~5歳の子どもが該当するとされています。

幼児教育が大切な理由

幼児教育が大切なのは疑う余地がありません。ここでは、代表的な4つの理由について解説します。

  1. 脳や神経系、身体が著しく発達するため
  2. 才能を伸ばせる可能性があるため
  3. 就学後の学校生活に影響するため
  4. 将来の収入に影響を与える可能性があるため

1つずつ解説しましょう。

1. 脳や神経系、身体が著しく発達するため

幼児教育が大切なのは、この時期に脳や神経系、身体が著しく発達するからです。

「三つ子の魂百まで」という言葉が示す通り、幼児期は「臨界期」と呼ばれ、脳が外界からその後の人格形成に影響を及ぼす影響を受けやすい時期です。ユニセフによると、子どもが3歳になるまでにシナプスによる接合が急速に拡大し、脳の発達はほぼ終了し、終生のパターンはほぼ形作られるとされています。

シナプスとは、神経細胞と神経細胞をつなぐ接合部分です。神経細胞が情報を伝達する際に必ず通過する重要な箇所です。

シナプスは神経細胞1個あたり、約1万個あるとされており、その数やサイズ、伝達効率、経験、刺激の種類に応じて柔軟に変化します。シナプスが多ければ多いほど、たくさんの情報を伝達したり、処理したりできるのです。そして、神経細胞内のシナプスの一定範囲内の数とサイズは一生涯維持されてしまいます。

また、人は5歳くらいまでに外界との適応の基礎となる、「嬉しい、悲しい、怖い、嫌い」などの「情動」という原始的な感情の動きを身に付けます。成長のために重要な役割を果たすメラトニンが集中的に分泌されたり、セロトニン神経系が著しく発達する時期でもあります。

セロトニンは情動をコントロールするのに特に重要だとされており、セロトニン神経系が未発達だと情緒不安定、自己主張が強い、攻撃的などの問題行動を起こしやすくなるとも言われています。

こうした点を前提にすると、幼児期は心と体の「根」を張る時期といえるかもしれません。幼児期にしっかりと人としての基礎を据えることで、その後の経験を糧にして、幹を大きく育てていくことができます。また、根をしっかり張っていない木が風に吹かれると簡単に倒れてしまうのと同じように、乳児期に心と身体の基礎をしっかりと据えていないと、問題や悩みにぶつかったときに耐えられなくなったり、問題行動に陥ったりする可能性が高くなってしまうのです。

出典:https://www.syougai.metro.tokyo.lg.jp/sesaku/know/rhythm004.html

2. 才能を伸ばせる可能性があるため

幼児教育が大切な2番目の理由は、才能を伸ばせる可能性があるからです。

慶応義塾大学教授の安藤寿康氏によると、人間の身長や体重は9割が遺伝的に決定されるのに対し、知能や学力は6~7割にとどまっています。本人の性格に関しては、遺伝の影響は3~5割です。遺伝的影響は確かに大きいですが、幼児期の教育や環境づくりが大切であることも分かります。また、仮に遺伝的に優れた資質や能力を備えていても、それだけでは不十分です。

教育デザインラボ代表理事で教育評論家の石田勝紀氏は、植物の発芽に必要な3つの条件である「水」「酸素(空気)」「適度な温度」に心を砕くように、見えない才能を引き出すためには「栄養」「家庭内の安定した雰囲気」「愛情」が揃う必要があるとします。もちろん、親がこれら3つの条件を整えるだけで、才能豊かな子どもが生まれる訳ではありません。しかし、親が幼児期の教育に何ら関心を持たなければ、才能を開花させる可能性は限りなく低くなるでしょう。

3. 就学後の学校生活に影響するため

幼児期は6歳以降の学校生活に移行し、適応するために必要な力を養う過程でもあります。その基盤として、ベネッセ教育総合研究所は、「生活習慣・学習態度」「学びに向かう力」「認知」という3つの軸を設定しました。この3つの軸は以下のような要素から構成されます。

3つの軸 幼児期 小学生以上
生活習慣・学習態度 生活習慣 学習態度
学びに向かう力 好奇心・自己主張・協調性・自己抑制・がんばる力
認知 言葉スキル・数・論理性・分類する力 言葉スキル・数・論理性

 

生活習慣、学びに向かう力、認知の発達には順序性があるため、幼児期の適切な時期に培われることで、次の年につながっていきます。

下図が示す通り、幼児期に培われた認知や言葉スキル、学びに向かう力、自己抑制、頑張る力、生活習慣がすべて小学1年生からの「学習態度」に結実します。つまり、小学1年生になってから学習態度や生活習慣を変えようとしても、本人にとっても親や周りの大人にとっても大きな負荷がかかることが分かります。

出典:幼児期から中学生の家庭教育調査・縦断調査(ダイジェスト版・2023年9月・ベネッセ教育総合研究所)

4. 将来の収入に影響を与える可能性があるため

幼児教育が大切な4番目の理由は、幼児教育の質が将来の年収に影響を与える可能性があるからです。

ジャマイカの研究を紹介しましょう。貧困家庭の乳幼児に対して自治体の保健師が2年間にわたって毎週1時間の家庭訪問を行い、子どもと触れあったり、一緒に遊んだりすることで認知能力や情動の発達を促すようにした結果、訪問を受けなかったグループの子たちに比べ、年収が42%多いことが分かりました。

また、アメリカのシカゴでは、スラム街に暮らす6歳以下の子どもたちに就学前プログラムを受けさせ、25年後にその影響を評価したところ、プログラムに参加した子どもたちはそうでない子どもたちのグループよりも収入や社会経済的なステータスが高くなっていたことが分かりました。

この点での代表的な研究はノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン教授により実施された「ペリー就学前計画」です。この研究の対象になったのは米ミシガン州の低所得層から選ばれた3~4歳のアフリカ系アメリカ人の幼児123人でした。1962~67年に研究が開始され、子どもたちのうち「質の高い幼児教育プログラム」に参加したグループとそうでないグループのその後について比較されました。プログラムは、26人の幼児に対して4人の教師が配置され、毎週1回、1時間半の家庭訪問、1日2時間半の授業が2年間にわたって行われました。

参加者が14歳、15歳、19歳、27歳、40歳になった時点で、IQ、高校卒業率、逮捕・収監率、既婚率、年収などを比較したところ、参加したグループはその後の「学校の良い成績」や「高い収入」につながっていたことが明らかになっています。

出典:https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/youji/dai1/siryou3-2.pdf

幼児教育の歴史

今後の幼児教育のあり方について考える上では、これまでの幼児教育の歴史について理解しておくことが大切です。ここでは、日本の幼児教育の歴史について簡単に紹介します。

1840年:ドイツで世界初の幼稚園

世界最初の幼稚園は1840年にドイツにおいて、フリードリヒ・フレーベルによって設立されました。フレーベルは遊びを通じて幼児の自然な発育を促すことを目的としていました。

そのため、フレーベルは幼児教育を実施する施設を「Kindergarten」と名付けました。これは英語の「Kindergarden」の由来になっていますが、フレーベルは「子どもたちが成長するための庭」のような場所として幼稚園を考えていたことを表しています。

また、庭師が花壇の世話をするように、子どもたちの学習や成長をサポートする役割を教師は担うとし、幼児教育は高度な教育的資質をもつ専門教師によってなされるべきだと考えていました。

フレーベルが採用した教育法はいまの幼児教育にも多大な影響を与えています。例えば、フレーベル教育では「恩物(おんぶつ)」と呼ばれる教育遊具が使われました。この恩物が今の積み木のもととなりました。つかみやすい円柱や立方体、三角形、直方体の積み木を使って、子どもたちは自由に遊び方を創意工夫できます。

1875年:日本発の幼稚園

1875年に京都の柳池小学校に日本発の幼稚園が附設されましたが、わずか1年半で閉鎖されてしまいました。しかし、翌年1876年には東京の東京女子師範学校(現在のお茶の水女子大学)附設幼稚園が本格的な幼稚園として誕生したことがきっかけとなり、大阪や鹿児島をはじめ、日本全国に幼稚園を通じた幼児教育が普及していきました。

当初はフレーベルの教育理論に基づき、「遊び」を通じた知育の実践の場だった幼稚園ですが、保護者からは「幼稚園は遊びばかりで学びが足りない」との不満が募り、1881年からは読み書き算盤が幼稚園の授業科目に組み込まれるようになりました。こうして幼稚園は徐々に知育中心から、小学校前の「就学準備機関」へと傾倒していったのです。

こうした傾向に対して、再び批判が高まり、1889年から幼稚園改革が推進され、幼稚園は再び「学び」の場から「遊び」の場へと変容しました。

1926年:幼稚園令が発令

1926年4月には14条から成る「幼稚園令」が発令され、保育内容は「遊戯」「唱歌」「談話」「手技」「観察」等、とされ、柔軟な制度運用が可能になりました。さらに幼稚園から外に出て自然に触れたり、律動運動や音楽に合わせて身体で表現するリトミックを導入したりするようになりました。

しかし、戦後期には自由保育に代わり、国旗掲揚や校歌斉唱、団体訓練などの「しつけ」が中心のカリキュラムへと変容し、1944年には東京都は全幼稚園に対して閉鎖令を出しました。

戦後~高度経済成長期

日本は戦後、1960年代に入ると高度経済成長期へと突入しました。1963年に厚生省児童局がまとめた「児童福祉白書」によると、「わが国の児童は、いまや天国は愚か危機的段階におかれている」と記したとおり、高度経済成長によって農村から都市へと人口が流出し、自然は破壊され、家庭の温かみは失われていきました。

家庭環境が変化し、核家族化したり、能力偏重の学校現場による教育の荒廃化が進行したりすることで、子どもの心と身体の発達も大きな影響を受けました。そんな中、1970年代には保育を変えていこうとする運動が活発化し、乳児保育の実践も広がりました。

1990年代後半以降、共働き家庭の増加や保育所整備の立ち遅れ、保育士不足などが原因で、一部の都市では待機児童数の急増が問題になっていました。

2019年からは「幼児教育・保育の無償化」が始まり、幼稚園、保育所、認定こども園などを利用する3歳から5歳児クラスの子どもたち、住民税非課税世帯の0歳から2歳児クラスまでの子どもたちの利用料が無料になりました。しかし、この制度に対して賛否両論があることは冒頭でも述べた通りです。

幼児教育の主な種類

幼児教育を実施している幼稚園や保育園、幼児教室にはそれぞれ特徴があります。キリスト教や仏教に根ざした教育を行っている施設もあれば、特定の幼児教育の理論を採用している場合もあります。

ここでは、主な幼児教育の理論について解説します。

モンテッソーリ教育

モンテッソーリ教育の本質は、乳幼児の子どもを観察し、適切な環境を整えることです。早期教育としてとらえられることもありますが、知識や技能を幼児に早くから教え込むことを目指してはいません。ユネスコによると、モンテッソーリ教育は世界で最も普及している教育法とのことです。

提唱者であるマリア・モンテッソーリは1870年にイタリアで生まれました。イタリア初の女性医師として、知的障害者の子どものために働きました。彼女は知的障害のある幼児の可能性を引き出すために教具の開発を行い、その教育を受けた幼児の中には知能テストで高いスコアを出す子も生まれ、モンテッソーリの名は広まっていきます。

その後、医師から教育者に転身したモンテッソーリはローマのスラム街で悲惨な生活を送る子どもたちのための施設「子どもの家」を設立し、道徳や規律を学びながら知的好奇心を自発的に表せるような環境や用具を整備することに心を砕きます。彼女は世界中で「子どもの家」の設立に携わり、その功績は高く評価され、ノーベル平和賞候補に3回も挙げられたものの、すべて辞退したといいます。

モンテッソーリ教育は以下の5つの分野から構成されています。

日常生活 着替え、掃除、食事の準備に加え、「切る」「折る」「縫う」などの日常生活に必要な行動を練習することで、幼児が達成感を味わい、自信を身に着けるようにする。
算数教育 公式を暗記したり、練習を繰り返したりする算数教育とは異なり、数を楽しく、感覚的に理解することを目指します。モンテッソーリ教育によると「数の敏感期」は6歳までのため、幼児期に数に触れることが大切です。
文化教育 世界の多様さ、生命の神秘などを知るために歴史や地理、生物について理解し、学びます。
感覚教育 モンテッソーリ教育によると、子どもの感覚は6歳までに発達するため、知覚や認知力の発達を促すことを大事にします。
言語教育 「言語の敏感期」と呼ばれる時期に語彙を増やし、表現力を育てるためにカードなどの教具を使用して教えます。

レッジョ・エミリア教育

レッジョ・エミリア教育が目指すのは、子どもたちに自分で考え、気づき、学ぶ力を芽生えさせることです。第二次大戦後に、イタリアの都市「レッジョ・エミリア」で生まれた幼児教育であり、現在ではGoogleの保育所が取り入れていることでも知られています。「子どもが100人いれば、100人の個性があり、100の可能性がある」という信念のもと、子どもの個性を尊重する教育法です。

レッジョ・エミリア教育の特徴は「プロジェクト」と「ドキュメンテーション」です。「プロジェクト」とは、子どもたちが半年から1年単位で取り組むグループ活動のことで、協調性やコミュニケーションを学びます。「ドキュメンテーション」とは、文字や写真、動画などで子どもたちの活動を記録し、誰もが見れるように展示します。この記録が次のプロジェクトを選ぶヒントにもなります。

レッジョ・エミリア教育は、子どもをよく観察する点で前出のモンテッソーリ教育と似ています。しかし、モンテッソーリ教育では環境のつくり方や教具の使い方にマニュアルがあるのに対し、レッジョ・エミリア教育には体系立てられた方法がなく、比較的流動性が高いとされています。

シュタイナー教育

シュタイナー教育は、ドイツの哲学者ルドルフ・シュタイナーが提唱した教育法で、子どもが自分で考え、判断し、行動できる人間になることを目指します。日本では1978年に日本初のシュタイナー学校が東京都新宿区に設立されました。

シュタイナー教育の最大の特徴は人間の発達を7年単位で区切り、0~7歳は身体の発達を促す時期とする点です。シュタイナーによると、感情は8~14歳に十分に働かせ、思考は15~21歳にさらに成熟するとされているため、幼児期は感情や思考を刺激しないよう、穏やかで柔らかな、温かな環境を整えてあげます。

幼児期は意思の力、感覚、身体を十分に発達させる教育を目指します。そのため、シュタイナー教育を取り入れた幼児教室の部屋は暖色系のカーテンや手づくりの木製おもちゃなどで構成されています。また、子どもの生活リズムをとても大切にする点も特徴の一つです。

ドーマン・メソッド

ドーマン・メソッドとは、アメリカのグレン・ドーマン博士によって1960年代に提唱された教育法です。ドーマン・メソッドは幼児の脳の発達に合わせて、視覚・聴覚・触覚の刺激を与えることを重視します。幼児期でもとくに0~1歳時に始めることが効果的とされていることから、「赤ちゃん教育」としても知られています。

ドーマン・メソッドでは、主に以下のカテゴリーで脳刺激を与えることを提唱します。

運動 「把握反射(赤ちゃんが物をぎゅっと握ろうとする反応)」、腹ばい、うつ伏せトレーニング、ブレキエーション(うんてい)
算数 「ドッツカード」を用いて、数字を教える前に数の事実を見せる
文字 アルファベットやひらがなではなく、「単語カード」を使って「読む」ことを教える
知識 フラッシュカードを用いて右脳を刺激

ドーマン・メソッドに基づき、幼児教育を行うことで、子どもが理解力や判断力を培い、良好な親子関係を築くことができるとされています。

ピラミッド・メソッド

ピラミッド・メソッドは「子どもの自主性(やる気)」、「保護者の自主性(働きかけ)」、「寄り添うこと」、「距離を置くこと」の4つを基礎理念とし、「①運動②創造③知覚④言葉⑤個性⑥社会性を持った情緒⑦考える力⑧時間と空間の理解」の8つの発達領域に注力しながら、バランスのとれた統一的な発達を目指す教育法です。

オランダの教育心理学者フォン・カルク氏によって開発され、オランダ政府教育評価機構「Cito」が21世紀型の幼児教育カリキュラムとして、オランダ国内に提唱しました。

「ピラミッド」と呼ばれているのは、「理論と実践」を分かりやすくするために「ピラミッド型=四角錘」に整理されているからです。ピラミッドの底は、前出の4つの基礎概念によって構成されています。

この中でやや分かりにくいのは「距離をおく」ことですが、これは子どもが「今、目の前にあるもの」だけを見るのではなく、「目に見えないもの」、つまり外の世界、抽象的な世界にも焦点を合わせる学びが子どもの発達を促すという「ディスタンシング理論」に基づいています。

ピラミッド・メソッドも他の教育法と同じく「遊び」「経験」を強調します。それは幼児が身近な具体的経験を通じ、さまざまな感覚による認識や思考をすることで、目に見えないものへの対処、抽象的な概念への理解を進められると考えるからです。例えば、子どもたちが「水」の概念を獲得するために、さまざまな場所で使われている水が色や形、味、においを変えてもどれも水であることを理解できるようにします。

七田式教育

七田(しちだ)式教育は「認めて、ほめて、愛して、育てる」を基本理念とし、誰もが持っている無限の可能性を吸収力の高い幼児期に引き出すことを目的としています。それにより、子どもたちが大きな志と奉仕の心を持ち、自らリーダーシップを取れるように育てることを目指しています。

創始者の七田眞氏は1929年島根県に生まれ、1958年から幼児教育の研究を重ね、右脳教育法を開発、1997年には社会文化功労章を受賞しました。

七田式教育は脳の成長発達に合わせて、さまざまな教材を用いて年齢別に子どもにアプローチします。例えば、5,6歳になると、脳は右脳優位の時期を経て、左脳へと移行し、一人前の自意識を持つ「小さな社会人」へと変化していきます。そのため、親を含めて周りは子どもの自己主張にしっかりと耳を傾け、同調しながらうまく話を引き出して、子どもの自信を育てるべきだとします。

石井式漢字教育

石井式漢字教育の特徴は、幼児期から「漢字かな交じりの絵本」で教育を行う点です。教育学者の石井勲博士によって提唱され、現在日本の約600の幼稚園で取り入れられています。

石井氏は幼児教育の中でも言語教育の重要性を説き、「幼児期の言語教育こそが人間の知能を決定する働きをし、能力を大きく飛躍させる鍵となる」としました。その上で、漢字は一見複雑そうですが、一字一字に意味を持たない平仮名やカタカナとは異なり、目で理解できる絵のような視覚言語であり、幼児にとっても識別しやすいのです。

幼児は繰り返しを好むため、漢字かな交じり文で本物の日本語に触れることで、暗記能力、論理的、体系的に理解する能力を高めることができるとしています。

幼児教育のポイント

さまざまな幼児教育理論やメソッドを知ると、いますぐにでも子どもに幼児教育を体験させたいと思うかもしれません。ただ、いったいどの方法が自分の子どもに合うのか、悩んでしまう方も多いはずです。また、仮に親にとってある教育理論が良いように思えても、子どもの適性に合うかは分かりません。そのため、幼児教育を行う際には以下のポイントを押さえておきましょう。

子どもの主体性を尊重する

「主体性」とは、「こうしたい」「こうなりたい」という意欲を持ちながらも、自己本位にならず、周囲との関係の中で自分を自覚して行動することです。

親にとって素晴らしく、効果的に思える教育理論を取り入れていたなか、子どもが嫌がるからといってコロコロと方針を変えるなら子どもは戸惑ってしまうでしょう。大切なのは、まず子どもの存在そのものを認め、安心できるようにすることです。

また、子どもの主体性を促すためにはさまざまな場面でオープンクエスチョンを用いるのも効果的です。オープンクエスチョンとは、「はい」「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンとはことなり、答えに幅がある質問のことです。

例えば、子どもに適度な大きさの声で話してほしいときに、「大きい声で話していいと思う?」という質問は暗に子どもに「ダメ」と答えさせることを想定したクローズドクエスチョンです。それに対して「この場所ではどのくらいの声の大きさがちょうどよいと思うかかな?」というオープンクエスチョンなら子どもの考えを引き出すことができます。

個々の発達段階をよく把握する

多くの幼児教育理論では、子どもが「何歳になったら何をすべきか」を体系化しています。例えば、1歳児は「全身を使って遊ばせる」、2歳児は「粘土や積み木遊びを活用する」などです。

ただ、それらの理論がすべての幼児に同じように当てはまるわけではありません。のんびり成長する子どももいれば、早熟の子どももいます。それは個々の体質が違うのと同じです。そのため、マニュアルを押し付けるのではなく、毎日の子どもの心と身体の発達や成長をよく観察して、把握しておくことが大切です。

コミュニケーションの機会を増やす

コミュニケーションとは、自分の気持ちや考えを言語化することに限りません。その前提として、「共感」が鍵になります。いくら自分の気持ちを伝えることができても、相手の気持ちに寄り添うことができなければ単なる「わがまま」「自己本位」になってしまいます。

では、子どもはどのようにして他者とコミュニケーションすることを学んでいくのでしょうか?その一つの方法は「遊び」です。

コミュニケーションを深めやすい遊びの中には、しりとりやなぞなぞなどの言葉遊びがあります。表現力だけでなく、相手が言っていることに耳を傾ける能力を培うことにもつながります。また、「ごっこ遊び」もコミュニケーションの機会を増やす上で効果的です。「ごっこ遊び」では、役になりきり、自分とは違う他のだれかの気持ちに寄り添い、それを表現します。役を与えられることで、自分の気持ちを表現しやすい利点があるのです。

コミュニケーションの機会を増やす上で最適なのは自然の中でキャンプをしたり、昆虫採集をしたりすることです。前もって決められたルールはないため、他者と協力しながら、課題を解決する能力を身に着ける過程で、自然とコミュニケーション能力を育むことができます。

子どもが自信を持てるようにする

幼児教育を実践していく上で大切なことは、子どもが成功体験を通じ、達成感を感じ、自信を持てるようにすることです。そのためには、子どもの様子をよく観察して、褒めることが最も大切です。そうすれば、子どもは安心感を持つことができ、楽しく遊びや学びに挑戦できます。楽しく継続することができれば、達成感を感じ、自信を育むことができるのです。

もちろん、なんでもかんでも褒めれば良いというわけではありません。子どもが達成感を感じるためには少し難しい課題にチャレンジしたときに、ポイントを押さえて褒めることが重要です。また、長い時間をかけて達成できるものではなく、短時間で取り組めるものを課題として選ぶことも必要です。

非認知能力を育てる

非認知能力とは、学ぶ意欲や頑張り抜く力など、IQでは測れない能力のことです。非認知能力は心や感情の働きと関係しているため、EQ(Emotional Intelligence Quotient)とも言われます。

文部科学省によると、非認知能力とは①自分の目標を目指して粘り強く取り組む、②そのためにやり方を調整し工夫する、③友だちと同じ目標に向けて協力し合う、という3つの要素から成り立っています。

アメリカのノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・ヘックマン教授は、幼児教育において非認知能力を育てる重要性を強調している一人です。ヘックマンの主張によると、人生を決定づけるのはIQではなく非認知能力であり、それを育むためには幼少期の教育投資が必要です。成長した若者にいくらさまざまな教育プログラムを提供しても、幼児期に適切な教育を通じて忍耐力や計画力を育んでいなければ、大きな効果は得られません。

幼児教室のメリット・デメリット

幼児教育は家庭だけでなく、幼稚園や保育園、幼児教室などさまざまな場面で実践される教育の総称です。専門的な教師による幼児教育を幼児教室で受けさせたいという人もいれば、共働きなどの理由で家庭で子どもと過ごす時間が足りないため、幼児教室を活用したいという人もいるでしょう。

実際、ベネッセが2022年に行った「幼児の生活アンケート」によると、幼稚園や保育園に「知的教育を増やしてほしい」「保育終了後におけいこ事をやってほしい」「自由な遊びを増やしてほしい」と願う母親が増加しています。例えば、「知的教育を増やしてほしい」と願う母親は2000年は34.8%でしたが2022年には77.2%に、「自由な遊びを増やしてほしい」は2015年の45.9%から78.7%に増加しました。

ここでは、幼児教育を実践する場として幼児教室を活用するメリットとデメリットについて解説します。

幼児教室のメリット

幼児教室に通うメリットは以下の通りです。

  • 客観的な視点で子どもを観察できる
  • 専門的な教育を受けられる
  • 将来の可能性を広げられる

客観的な視点で子どもを観察できる

親が家庭だけでどれだけ頑張って教えても、一人や二人でできることには限界があります。幼児教室に通わせると、客観的な視点で自分の子どもを見てくれる教師がいます。親では気付けなかった褒めるべき点を指摘されることもあります。また、他の子どもの親たちとコミュニケーションをとることも客観的な分析や観察に役立ちます。

専門的な教育を受けられる

上述したさまざまな幼児教育の理論やメソッドは親が自分で本を読むことで勉強できますが、専門的な教育を受けているわけではないため、本来の趣旨から逸脱することもあり得ます。

その点、幼児教室にはモンテッソーリ教育やシュタイナー教育を専門的に学んだ教師が在籍している場合もあります。実践を通じてたくさんの子どもたちの発達や成長を観察しているため、生きた知識を学べるでしょう。

将来の可能性を広げられる

幼児教室では、家庭ではできない経験や、親だけでは連れて行けない場所での活動ができます。多くの経験をすれば、それだけ子どもの可能性は広がります。幼児教室での経験を通じて、興味を持ち、それを育てることが将来の専門や仕事につながるかもしれません。

幼児教室のデメリット

幼児教室のデメリットには以下のような点があります。

  • 費用がかかる
  • 子どもがストレスを感じる可能性がある

費用がかかる

幼児教室に子どもを通わせる場合、必ず費用がかかります。さまざまなタイプの幼児教室があり、一概にかかる費用を算出することはできません。知育にフォーカスしている幼児教室の場合と、小学校受験準備や早期教育を目的としている場合では費用面でも大きな相違が生まれます。仮に月謝が20,000円とすれば、それだけで年間36万円かかり、継続するためにはさらに家計を圧迫することになるでしょう。

子どもがストレスを感じる可能性がある

子どもの特性によって異なりますが、教室に定期的に通うことがストレスになる場合があります。また、親が別の子と比較する様子が増えると、子どもに知らず知らずのうちにプレッシャーをかけてしまいます。そうなると、子どもは幼児教室に「自分が行きたくないのに通わされている」という感覚を持つようになるかもしれません。本来は子どものための幼児教室が、子どもにとって楽しくないものになれば、本末転倒といわざるを得ません。

幼児教室の選び方

幼児教室のメリット、デメリットを前提にすると、幼児教室の選び方が見えてきます。以下の点を念頭に置いておくとよいでしょう。

子どもはリラックスできるか?

前述したように幼児教育が効果を発揮するためには、子どもが受け身ではなく、主体性を発揮することが鍵になります。そのためには子どもがリラックスできる環境であることが重要です。

子どもや親に負担がかかるか?

幼児教室に通わせることで、ある程度の負荷がかかることは避けられません。しかし、幼児教室の月謝が家計を圧迫しつづけたり、場所が遠いため、子どもと一緒に通うのが体力的に負担になったりするなら、続けることは難しいでしょう。

実践しているメソッドや教師はどうか?

各幼児教室が実践しているメソッドや理念の基盤になっている教育理論は異なります。前述した情報なども参考にしながら、親として共感できるか、子どもの特性や適性に合致しているかも検証しましょう。また、教師の専門性や経験も把握しておきたいところです。

体験レッスンを実施しているか?

以上の3点をホームページやパンフレットなどで知るだけでは不十分です。実際に幼児教室に足を運んで、雰囲気を肌で感じるために体験レッスンに参加しましょう。いくつかの教室の体験レッスンに参加して、比較するのも良いでしょう。

こどもクリエ塾について

ここでは、幼児教室「こどもクリエ塾」について紹介いたします。「こどもクリエ塾」の「クリエ」とは、次の3つの頭文字を組み合わせたものです。

クリエイティビティ 新たに創造すること
リーダーシップ 仲間の心を動かし、率先して行動すること
エクスパンディド アウェアネス オブ ワールド カルチャー 広い視野で世界を認識すること

2011年4月に開校した民間学童保育スクールで、21世紀に求められる、国際的に通用するリーダーシップと創造力を育てることを目的にしています。

目指す3つの力

こどもクリエ塾では、以下の3つの力を子どもたちが育むことを目指します。

自律的に活動する ・自分にとって大切な問題を見つける

・ゴールを設定して、実行する

・自分の考えや意見を人に伝える

言葉・情報・技術・知識を活用する ・言葉、数、図表などの使い方を工夫する

・知識の使い方を工夫する

・道具の使い方を工夫する

異質な集団と交渉する ・他人や地域の人とよい関係をつくる

・皆と力をあわせて協力する

・人の意見を聴き、考えを理解する

この3つの力はこどもクリエ塾の建学の精神である「正解が一つではない世界で、何が問題かを自分で考え、判断を下せること」、「これまでに存在しなかったものを創造できること」、「世界の人や、多様な文化・価値観を持つ人と話し合い、共生できること」とも結びついています。

この3つの力を育てることで、子どもたちはジェームズ・ハックマン教授が強調した「非認知能力」、つまり他者と協力しながら粘り強く課題に取り組む力や人間性を高めることができるのです。

3つの学びの特徴

以上の3つの力を育成するために、こどもクリエ塾の学びには、次の3つの特徴があります。

1.STEAMをベースとした実践的な学び

「STEAM」とは、「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineerring(工学)」「Art/Liberal Arts(芸術・リベラルアーツ)」「Mathematics(数学)」の頭文字を組み合わせた造語です。

東京学芸大学の大谷忠氏はSTEAM教育に関して「近年は、現実社会の問題を創造的に解決する学習を進める上で、あらゆる問いを立てるために、Liberal Artsの考え方に基づいて、自由に考えるための手段を含む美術、音楽、文学、歴史に関わる学習などを取り入れるなどSTEM教育を広く横断的に推進していく」と述べています。

また、日本STEM教育学会の新井健一氏によると、取り扱う社会的課題によっては、国語や社会に関する課題もあり、「いわゆる文系、理系の枠を超えた学び」が必要だとしています。

こどもクリエ塾では、子どもたちが興味や疑問を持ったことについて、横断的に、実験など試行錯誤をしながら実践的に学ぶカリキュラムを組んでいます。

2.協働による学び合い

自分の意見を発表したり、話し合いをしたり、協力して実験に取り組むなどすることで、コミュニケーションを図りながら、協働による学び合いを行います。

3.少人数制でじっくり学ぶ

最大6人のグループに1人の先生が担当します。先生の役割は学びの促進を援助する「ファシリテーター」であり、「アドバイザー」です。

まとめ

幼児教室にはそれぞれ特徴や理念があるため、子どもにとって最適な教室を選ぶためには、親の側も幼児教育が必要とされる理由や、歴史、主な理論、ポイントについて知っておくことが助けになります。

幼児期の教育においては親の果たす役割が大きいですが、子どもが持っている潜在能力を発揮し、社会性や創造性を身に着ける上で「第三の場」としての幼児教室で学ぶことには確かなメリットがあります。

こどもクリエ塾は「21世紀を担う子どもたちが、情熱をもって、創造的な学びを得られる場」を、地域の皆さんと一緒につくっていけたらと考えています。

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